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カトリーナから3ヶ月後のニューオーリンズ描く『Treme』 愛する街にたくましく生きる

Wendell Pierce

HBOがまた素晴らしいドラマを作ってきました。『Treme』というハリケーン・カトリーナから3ヵ月後のニューオーリンズ・トレメ地区を舞台にした人間ドラマです。

と、感動していますが、実は第一話を見たときは、ストーリーが頭の中に入りませんでした。アンサンブル・キャストですから、核になるキャラが何人かいるわけで、パイロット版で彼らのキャラ説明をサクっと行っているのですが、それが何がなんだか分からなかったのです。そこでHBOのサイトであらすじを読み、トレメ地区やニューオーリンズの文化についてもさらに勉強してみました。背景を勉強して、もう一度見直すと、どんどんおもしろくなってきました。

主人公は、ウェンデル・ピアース演じるアントワンはトロンボーンを吹くミュージシャンです(=写真上)。しかし、その場暮らしのところがあり、毎日顔見知りを見つけては演奏させてくれよと頼む始末。家には赤ちゃんとその母親が待っているのです。アントワンはうまくいかなくなると元の奥さん、ラドナ(カンディ・アレクサンダー)のバーに逃げ込みます。

ラドナは再婚した歯科医の夫とバトンルージュに住んでいます。ラドナの高齢のお母さんは、カトリーナ後もトレメに住んでいます。行方不明になった息子のデヴィッドが戻ってくるのを信じて、家を離れようとしないのです。

ラドナの弟(つまりデヴィッド)探しに協力しているのは、人権派弁護士のトニ(メリッサ・レオ)。トニは役所や警察の遅い対応にイライラしながら、ついでにラドナからも不審の目を向けられながら、デヴィッド探しに奔走します。カトリーナ以降、数百人の人々が行方不明になりました。自主的に行方をくらました人も多く、警察は本気にしないのです。
Khandi(=写真、右端がメリッサ、左端がカンディ。カンディはこの役のために『CSI:マイアミ』を辞めた)

トニの夫は大学教授のクレイ(ジョン・グッドマン)。クレイは大統領やFEMAに不満があり、発言したくてたまらないようです。彼の主張は「カトリーナは天災だが、その後のニューオーリンズの洪水は人災である」。トニとクレイの娘ソフィーにピアノを教えているのが、スティーブ・ザーン演じるデイヴィスです。デイヴィスは地元ラジオ局のDJでミュージシャンでもあります。白人ながらニューオーリンズの音楽を心から愛し、トレメ地区を守ろうとします。

そのデイヴィスの恋人?友人?がレストランのオーナー・シェフ、ジャネット(キム・ディケンズ)。カトリーナ後に再オープンしたレストランはお客さんから愛されていますが、修理費などにお金がかかり、しかも災害保険はまだ降りていない状態。台所は火の車、果たして店を守っていけるでしょうか?

若いミュージシャン同士のカップル、バイオリンひきのアニー(ルシア・ミカレリ)、ソニー(ミヒル・ホイスマン)もいましたね。ニューオーリンズの音楽が好きでやって来た2人ですが、やがてその音楽才能に違いがあることから、関係がぎくしゃく…。

それとチーフと呼ばれているのは、マルディグラ・インディアンのトライブ・リーダーのアルバート(クラーク・ピータース)。カトリーナ後、ニューオーリンズから離れていましたが、やはりチーフの血が騒ぐのか、子どもたちの反対も聞かず、戻ってきました。

ニューオーリンズが舞台ですから、何と言っても劇中の音楽が素晴らしい。アメリカ南部の黒人音楽と言えば、ジャズ。気取った音楽はちっともありません。それどころか、どこか温かなのがニューオーリンズ・ジャズ。ミュージシャンたちが、即興でジャムに応じる姿が描かれます。コラボとかそんな言葉は必要なし。気が向けば、演奏が始まるのです。ジャズファンではないので、劇中に出てくる音楽やミュージシャンのことは分かりませんが、サントラ盤が欲しくなりました。ジャズファンにはたまらないのではないでしょうか。(そういえば、日本人ジャズファンがいい役で出てくる回があります。日本人は世界でも有数のジャズ好きですからね)

ニューオーリンズの文化はジャズだけではありません。セカンドラインというマーチ(楽器を弾いたり、踊ったりしながら行進する)や、インディアンのトライブが集まって歌を練習したりするシーンが何度も登場します。これらは全てニューオーリンズに残る文化、風習だそうです。南部らしい陽気な文化、カトリーナの後だからこそ、こうして明るく気分を盛り上げるんだという街の人々の心情もあるでしょう。こうした文化があるって、なんて素晴らしいんだろうと思いました。アメリカが建国されたのは、1776年のこと。まだ250年もたっていない若い国です。けれど、こんなに世界に誇れる文化がある街もあるんだなあ。

私の住むロサンゼルスには、ニューオーリンズのような民俗文化ってどんなのがあるだろうと考えてしまいました。基本的に、民俗文化ってマイノリティが生み出すものじゃないですか? 黒人、ラテン系、アジア系、そしてゲイの人たちとか。彼らは白人・多数派に立ち向かわなくちゃいけないから団結するわけです。団結する一つの手段として、独自文化が生まれたのではないでしょうか。

ニューオーリンズの豊かな文化にも感激しましたが、このドラマを好きなのは、私が神戸出身だからというのもあるでしょう。神戸も震災を経験、街の再建もニューオーリンズと同様に経験しました。神戸はニューオーリンズのような危険?なことは起こらなかったと思いますが、再建が思わぬように進まない苛立ち、絶望などは同じだと思います。神戸やその他、天災を経験された方は実感できるドラマだと思います。神戸を舞台にした、こういうドラマを誰か作ってくれたら、きっと嬉しく思うでしょう。ただし、ここまでのドラマは生まれません。自分の街は自分たちのものという、アメリカ人の独立精神がニューオーリンズの再建には関連していると思います。

再建とは街だけでなく、個人の人生のことも指すのです(←これに関しては、ドラマを見てのお楽しみ!)。

俳優のキャスティングには相変わらず素晴らしいものがあります。クリエーターは『The Wire』のデヴィッド・サイモンですから、いくつかのキャストがかぶってますね。主演のウェンデルはニューオーリンズ出身、このドラマに主演することをどのくらい誇りに思っているのでしょう。彼はニューオーリンズ再建のため、ボランティア活動にも熱心に取り組んでいます。『The Wire』の時も愛すべき刑事でしたが、ぽっちゃりさんが得をしてるわけでもないのでしょうが、ダメ男でも愛さずにはいられないキャラ。まさにそのキャラを好演しています。

もう1人はメリッサでしょうね。人権派弁護士として、お金のない人たち(主にアフリカ系の人たち)を弁護します。うまくいかなかった日には肌はシワシワ、収穫のあった日は肌のツヤが違うのにはびっくりです。人間ってそういうものですよね、疲れた顔をするときもある。だけど、ほんとにそれをTVの画面で見たのは彼女が初めての気がします。こんなリアル感、女優だったらイヤだったはずです。いやー、凄い。

もう1人はスティーヴ・ザーン。コメディ映画によく出る俳優ですよね。かわいらしいルックスですが、芸達者です。歌って、楽器を弾いて、演技もみせて全部良し。人から見れば、バカだなあと思えることも、本気で良いと信じている、ある意味ドンキホーテな男を演じています。それが説得力があるんです。

『Glee』じゃないけど、こうして音楽が重要な部分を占める作品でも、ちゃんと適した役者が出てくる。全くアメリカの芸能土壌は広いし深い。そして、こうしたニューオーリンズのような街の存在が、その文化的に豊かな人材を育てているという事実も忘れてはなりません。

テーマ: 海外ドラマ(欧米)
ジャンル: テレビ・ラジオ

タグ: Treme HBO

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